職人の仕事場を訪ねる旅

A journey to meet craftsmen

  • JUNE 7, 2017
  • INTERVIEW
  • 茶師 上嶋 伯協

モノづくりの結び手「近藤芳彦」が導く未来を創る職人との出会い、そして価値ある体験への誘い

近藤芳彦が、自身選りすぐりの職人5名を訪れ、対談をしながら「お客さんに喜ばれる体験」について考えるシリーズ。多くのお客さんと職人の橋渡しをしてきた近藤と、伝統技術を継承しながら未来を切り拓く彼らが考える「業界事情」「今後残したいもの」「発展させたいもの」とは?

上嶋爽禄園 チャムリエ上嶋 伯協さんNoriyasu Uejima

〈写真右〉1955年、江戸時代より続く茶園「上嶋爽禄園」に誕生。22歳で実家の茶業を継ぎ、父の手伝いをしながら茶作りとお茶の小売を始める。「チャムリエ」(日本茶インストラクター認定制度)としての活動にも積極的で、約6年前に「和束茶カフェ」をオープン。宇治茶、お茶の歴史等について話し、茶農家おすすめの茶の淹れ方、茶の選び方等を伝える講座、 茶の銘柄を当てる競技(遊び)である「茶香服」の出前講座などで、お茶を通じてほっこりできるライフスタイルを幅広く提案している。

株式会社京都結 代表取締役近藤 芳彦さんYoshihiko Kondo

〈写真左〉1972年、京都生まれ。八坂神社・北野天満宮狛犬の銅像製作などを行った彫刻家の石本暁海を曾祖父、官僚を経て寺院の住職となった祖父、表具師として掛け軸や屏風などの仕立てを行った父を持ち、2006年、個人・法人を対象に京都旅行を企画するトラベル京都を設立。2016年、観光イベント・ツアーの企画・開発及び京都府内の観光コンテンツ企画・開発、デザイン制作、コンシェルジュ業務、コーディネート業務を行う株式会社京都結を設立。府の職員として長期間地域に定着する非常勤職員として和束町でも活躍。

地域に根差した茶農家として、若年層の育成、世界に向けた情報発信などを行いながら、茶の生産販売をする上嶋氏。茶業界の実情、茶や土地に対する思い、今後の展望などをうかがいました。

自分が作った茶は、自分で届けんと納得がいかん。
みんなに飲んでもらいたいわけでもない。

近藤普段、お客さんに宇治茶のご説明をするときに「宇治茶といっても、京都産のお茶ではないんですよ」と話しているのですが、ご存知でない方がすごく多いんですよ。

上嶋確かに知られてへんなあ。

近藤だから、和束茶のお話を伺う前に、上嶋さんから宇治茶、和束茶についてご説明いただきたいんです。

上嶋宇治茶は、京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産の茶を、京都府内の業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工したもの。だから、いろんな産地のお茶に和束茶が入っていたとしても「宇治茶」として表示されることはあっても「和束茶」とは表示されない。

近藤つまり、「和束茶」とされているものは100%「和束茶」で、「宇治茶」とされているものには、どこのお茶が入っているかわからないということですね。

上嶋そういうこと。場合によっては加工された海外のお茶が入っていることもある。お茶屋さんは、いろんな産地のお茶を仕入れて、自分たちでブレンドするのが仕事やしね。ちなみに、仕上げ前のお茶「荒茶」の単価は全国平均で1200円。京都は2400円。鹿児島、静岡は2番茶、3番茶、4番茶になると桁が何百円になる。要するに、宇治茶は、そういう恵まれたポジションにいるわけです。

近藤上嶋さんは、栽培されたお茶を小売店に卸すことなくご自身で販売されていますが、それは、そういったブレンドの背景があるからですか?

上嶋第一に、人に委ねると、人の思いとかが入って違うものになってしまうから。自分の考えと違う商品ができてしまう。それが納得いかんねん。自分で作った茶は自分で届けたいし、みんなに飲んでもらいたいわけでもない。

近藤限られた人に届けたいと?

上嶋世界中に発信しますと言って世界中の人に買ってもらっても、うちの場合は一瞬でなくなる。250キロのお茶しか採れないから、売れたら終わり。ノンブレンド。欠点でも長所でもあり、セールスポイントでもある。

近藤京都市や宇治市の小売店に買いに行かれるお客さんとは層が異なりますね。

上嶋うちらに来るお客様は、いつ、どこの農家のどのお茶がほしいか指定して買われるお客様もある。そのぶん、厳しくいわれますよ。「去年のほうがおいしい」とか。

近藤ボジョレーみたいですね。

上嶋そうそう。つまり、そういうことやねん。ひとつとして同じお茶はないし、同じ茶の木でも毎年茶の味は違う。そういう理解は、一般的にはまだまだ得られていないんやけどね。

▲ 茶の号組をする上嶋さん。もちろん和束茶だけでブレンドする

手間暇かけて丁寧に栽培して仕上げにもこだわっているから、
余計にほかの産地と一緒にしてほしくない。

近藤恵まれた土壌、昼夜の大きな寒暖の差が生み出す霧などの条件が揃っていて、和束町は古くから香り高い高級煎茶の地として知られてきましたよね。やはり、栽培はほかの産地と全然違うのでしょうか?

上嶋そうやね。肥培管理とかは全然レベルが違う。あと、はっきり言って、ここは労働条件が悪い。下のほうならともかく、山の上のほうになると斜面がきついので手による栽培が大変。だから、余計に機械で雑に刈り取るような土地の茶と一緒にしてほしくないと思ってしまう。

近藤茶葉のレベルもさることながら、仕上げの加工とかも重要なんですよね?

上嶋そこがほんまに重要。お茶の葉だけでいうなら、畑でも肥培管理で茶は採れる。だけど工場でいい仕上げにしないとダメになる。

近藤だから工場をお持ちで、ご自身で管理されているわけですね。

上嶋ただ、たとえ工場に素晴らしいオペレーターがいても、お茶がよくなかったら、その葉以上のお茶はできない。刈取るときのお茶の状態とかいろいろな条件がぴったりこんとあかん。

近藤どれも欠けたらあかんと。

上嶋芽は若すぎてもあかん、行き過ぎてもダメ。そのタイミングを見極めないと、いいお茶は作れない。もうちょっと待ったら量が増えるというときでも、質が落ちると判断したら摘む。碾茶は玉露より1週間ほど遅れて収穫するんやけど、もうあかんというところまで伸びるのを待つ。ただし、ちゃんとした肥料を入れてね。

近藤本当に奥深いものなんですね。

上嶋碾茶工場を持っていると、自分が炙りたいときに炙れる。加工で依頼してしまったら、「待って」とかいわれている間にタイミングを逃すやろ。1日、2日待っていたら、そのぶん旬が過ぎてしまうから、いいお茶できへねん。

▲ 「香りが全然違うやろ」香りを効くと得意気に薦めてくれた

お茶の良さを伝えることは
絶対に必要やと思うけど、それ以上に人間力が要る。

近藤今後、和束にはどのようなお客さんに来てほしいと思われますか?

上嶋さっきも言ったけど、「限られたお茶」を求める人に来てほしい。そのためには、宇治茶と和束産のお茶が違うということをもっとアピールしていかんとあかんと思ってる。そして、それをアピールできる人が必要。

近藤それは農家の方ですか?

上嶋農家もそう。なぜいいお茶ができるか、なぜ高価なのかということを自分で説明できる人が少ない。あと、和束に住んでいる人たちもそう。「お茶の京都」とか、行政にいろいろやってもらうことは有り難いことやけど、民間はそれが何かというも把握していないし、実感していない。

近藤それはどうすればいいんでしょうねえ?

上嶋言葉は悪いけど、儲けんとあかんと思う。結果を出していくということ。和束茶カフェにしたって、オープンして6年ぐらいたつけど、6年前に比べたら確実に状況は変わってきている。

近藤本当にかなり変わりましたよね。

上嶋「お茶屋が集まったり、茶の試験をするような茶業会館に、お客さんを呼んでお茶を売ろうなんて、おまえらはアホちゃうか」というような感じやったけど、今はかつてそういうことを言っていた人たちの態度も変わったしね。ここには、将来のことを真剣に考える人たちがいる。だから、このコミュティを大きくしていって、伝えていきたい。

近藤伝えていくことで、お客様も変わってくるでしょうしね。

上嶋現状、まだまだここに来るお客様にしたって、多くはお茶に対する理解がない。だからこそ、近藤くんみたいな人には、理解してもらえるようなステージを作ってほしいと思う。

近藤担い手づくりはもちろん、上嶋さんが動いておられるような方向にみんなが一丸となって進むようになればいいなと思っていますよ。

上嶋あと、僕が本当に大切だと思っているのは、お茶そのものもあるけれど、それをPRする側の人間力。お客さんに「あの場所に帰って、お茶がほしい」と思ってもらうには、お茶の説明ができるだけではあかん。それは土地の人たちにも同じことが言えると思う。人は人を見ているし、「どう見られたいか」を考えるべき。いわば、自分磨きやね。

近藤このサイト「ENYSi」も、まさにそのような感覚を大切にされています。

上嶋すべては縁やからね。「俺がええお茶を作っている」といったおごりではなく、わざわざ和束に来てくれた人との縁を大切にしていくといった感覚は大事。うちは常に若い子たちが修行に来ているから、いつもそういうことを彼らに教えるようにしています。

▲ オープン当初は茶びつに数種類の品しか並んでいなかったというカフェ。今や、お茶だけでも140アイテムあり、産地直送の厳選された茶製品をリーズナブルな値段で購入することができる

急須で茶を飲むことを知らない人たちには、
ゆっくりとした「茶の時間」を体験してもらいたいと思う。

近藤ここにきてもらったお客様にお茶のことを伝えられるようなことを何かできないかなと思っているんですが、何か案はありますか?

上嶋お茶の入れ方はみんな知らんから、お茶の淹れ方を教えてあげるのもいいけれどなあ。あと、いろんな種類のお茶を飲んでもらって、お茶を選んでもらうというのも理想やけど、そこまでカフェの整備が行き届いていないからなあ。

近藤やっぱり、お茶ってそんなに知られてないんですか。

上嶋ペットボトルでお茶を飲む時代やから、家には急須どころかまな板もないと言われているなあ。急須のない世帯が三分の一とかいうけど、三分の一どころではないと思う。

近藤それはなんでなんでしょうねえ?

上嶋僕らの世代があかんかったと思うよ。和束のお茶がいいとか言いながら、お客さんに珈琲を出してきたわけやし。あと、国全体が便利さを追ってきた裏側に日本文化の崩壊がある。

近藤それはそうですね。

上嶋今や、抹茶はコーヒーメーカーを使って出されるし…。商売としてはええやろうけど、日本文化を考えるとどうかと思う。フランスとかやと地産地消とか教育で教えているけれど、日本はまだまだ…。とにかく、便利、簡単、手間いらずじゃなくて、「じっくり生きてほしい!」と思う。そのために煎茶を教えているんやけどね。

近藤そうなると、お茶摘みではなく、お茶刈とか苗木植えとかもいいんじゃないでしょうか?上嶋さんに会いにきて、お茶の様子を見る時間を持つとか。

上嶋大学と共同でそういう活動もしているよ。東京のほうからわざわざ学生が来てくれはるねん。

近藤なるほど。何かそういう「時間」みたいなものを共有する体験はええと思うんですけどね。

上嶋ペットボトルしか知らない人たちにとっては、お茶とかお茶にまつわるものが「忘れていたものをもう一度」ではなく、未知なる世界になるからね。そういう意味では、昔の「茶の間」を再現して、沢庵でもかじりながら茶をする時間を持つのもいいかもしれん。

近藤「お茶の間」体験!いいですね。「今日はこうやったなあ」みたいな話をしてね。

上嶋そこに来てくれた人がまた人を招いてくれてみたいな地道な活動をせなあかんと思っているし、それでどうやろ。

近藤いいと思います!

▲ 「お茶の間」体験について語り合う近藤さんと上嶋さん

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