職人の仕事場を訪ねる旅
A journey to meet craftsmen
- FEBRUARY 21, 2017
- INTERVIEW
- 陶芸家 清水 大介
モノづくりの結び手「近藤芳彦」が導く未来を創る職人との出会い、そして価値ある体験への誘い
近藤芳彦が、自身選りすぐりの職人5名を訪れ、対談をしながら「お客さんに喜ばれる体験」について考えるシリーズ。多くのお客さんと職人の橋渡しをしてきた近藤と、伝統技術を継承しながら未来を切り拓く彼らが考える「業界事情」「今後残したいもの」「発展させたいもの」とは?
陶芸家清水 大介さんDaisuke Kiyomizu
〈写真左〉1980年、五代目清水六兵衛の孫清水久の長男として誕生。2001年に京都府立大学環境デザイン学科卒業、2005年に京都府立陶工高等技術専門校修了。その後、陶芸家 猪飼祐一氏に師事。2008年、京都市左京区岩倉にて工房を構え、3年後、工房を京都市山科区清水焼団地に移して器の店「トキノハ」をオープン。2015年、岩倉に器の店・カフェ・工房を融合した「HOTOKI」をオープン。
株式会社京都結 代表取締役近藤 芳彦さんYoshihiko Kondo
〈写真左〉1972年、京都生まれ。八坂神社・北野天満宮狛犬の銅像製作などを行った彫刻家の石本暁海を曾祖父、官僚を経て寺院の住職となった祖父、表具師として掛け軸や屏風などの仕立てを行った父を持ち、2006年、個人・法人を対象に京都旅行を企画するトラベル京都を設立。2016年、観光イベント・ツアーの企画・開発及び京都府内の観光コンテンツ企画・開発、デザイン制作、コンシェルジュ業務、コーディネート業務を行う株式会社京都結を設立。府の職員として長期間地域に定着する非常勤職員として和束町でも活躍。
清水六兵衛の孫である陶芸家 清水久の長男、陶芸家の清水大介氏。「日常づかいの清水焼」を作陶し、若い世代を中心に人気を集める彼に、陶芸に対する思い、陶芸業界について感じること、今後の展望などをうかがいました。
車を求める人には車を売りたい。ドアの塗装技術やエンジンの良さは、二の次だと思うんですよ(清水)。
近藤僕は、旅企画をする中で、モノそのものを紹介するのではなく、モノづくりに携わっておられるヒト、モノづくりに光をあてるほうが、結果としてモノのよさを知ってもらえたり、新たな価値が生まれると感じているのですが、清水さんはそれについてどう思いますか?
清水きちんと伝えるということは必要だと思いますよ。器にしても、実際に手にしてもらいたいし、使ってもらいたい。トキノハでも希望があれば工房見学はしてもらいますしね。岩倉に器が使えるカフェ・見学できる工房・器の店を融合した「HOTOKI」をオープンした理由もそこにあるんです。
近藤そういったことが必要だと考えられるようになったのはいつ頃からですか?
清水陶芸の仕事を始めた頃からです。僕は、そもそも清水焼の在り方については疑問を感じてきましたから。
近藤というと?
清水技を誇示するようなものが多くて、たとえば若い世代に器をどう使ってほしいかといったことを伝えているものが少ない。僕は、器って、料理を盛るため、生活空間をわくわくしたものにするためにあると考えているんです。
近藤だから、清水さんはご自身が作られる器を「生活に寄り添う器」とされているんですね。
清水そうですね。木や布、石などもそうですが、昔から使われてきた素材を使って、空間を楽しくするモノを作ることはできると思うんですよ。
近藤いい悪いは別にして、文化継承として守られてきていることが多いぶん、若い世代にしても、そのあたりの発想を上手に切り替えられない職人さんは多いのかもしれませんね。
清水車を求めているお客さんにドアの塗装の技術がすごいとアピールしたところで響かないでしょ。もちろん、そういう技術はあってもいいと思うんですよ。車がほしい=ドアの塗装の技術にこだわるという人もいるでしょうから。でも、求めている人はほんの一部なんだと感じるんですよ。
陶芸で結果を出していくということ、陶芸がビジネスになるということを若い世代に対して示していきたい。
近藤売れ筋で業界を守り、一方で担い手となる職人が減少するという問題も叫ばれていますが、その点についてはどうお考えですか?
清水そこはまさに京都の問題で、僕自身が変えたいと思う部分です。陶芸の学校も昔は生徒の8割程度が跡取りでしたが、今は親の背を見て陶芸家への道を進みたくないと考える人が増えている。で、陶芸に親しみのなかった人の多くが陶芸への道へ進んでいて、行き詰まりを感じている。
近藤そういう人たちに対してなにをしていけばいいでしょう?
清水陶芸がちゃんとしたビジネスになるということを示さんとあかんと思うんです。
近藤なるほど。ビジネスですか。
清水陶芸で食べていくということは起業をするのと同義だという捉え方が必要なんです。「起業する」といえば「大丈夫?」って心配されるけど、「陶芸で食べていく」いえば「夢があっていい」とか無責任な反応があったするでしょ。でも、それはおかしい。大学の先生とかも技は教えるけれど、生徒に食べていく術は教えないですしね。
近藤知らないのかもしれませんよね。
清水そう。知らないんですよ。一発逆転、名誉ある賞でも獲って食べていくみたいな世界で、先生も夢見がち。もっと真剣に食べていくことを考えないといけないと思うんです。
近藤でも、なぜ多くの人が「陶芸をビジネスに」と捉えられないんでしょう?
清水そういう刷り込みがあるんやと思うんです。誰かに言われたわけではないけれど、美とか芸術と呼ばれるような世界でお金のことを考えるのはいやらしいというような考え方がね。特に陶芸をすすんでするような子たちは、そういう考え方をしたくないから陶芸をしているという子が多いので難しいと思います。
近藤清水さんは昔から陶芸でビジネスと考えていた?
清水いえいえ、3年ぐらい前からですよ(笑)。幼馴染の会計士に「おまえは経営者なんやぞ」って言われて「いやいや、俺は陶芸家やから、お金のこととか、いやらしいことは考えたくない」とか言い続けてきたんですが、そういうやりとりを何年か重ねているうち、自分も人を雇ったり、奥さんも子ども持つようになったこともあって、だんだん彼のいうことが染みるようになってきたんです。
近藤なるほど。面白いですねえ。
清水でも、「陶芸はビジネスだ!金だ!」と言えるほど完全に振り切れているわけではないんですよ。破産してもええやんと思うときもありますしね。(笑)
近藤やっぱり少しは残りますか。(笑)
清水こういう仕事はイメージが大切なので、完全にお金に縛られていたら作れるものも作れない。ただ、お金がないとやりたいことができないことがあるのも事実です。だからこそ、そういう姿勢を若い子たちに示していければと考えています。
プロダクトデザインをかじったので設計・図面・言葉などからコンセプトを考えて作ることが多い
近藤作陶に展示会にと、いろいろお忙しいかとは思いますが、今後、陶芸でこんなことをしていきたいというイメージはありますか?
清水今は、お客様に販売する商品だけではなく、お客さんのご要望を聞かせてもらいながら器を作るのが好きなんです。具体的に欲しいものが決まっていない方もいらっしゃるのですが、試行錯誤をしながら柄や色や形を変えてサンプルを作ったりするのは、やっぱり面白い。
近藤本当に多様な発想でいろいろなモノを作り出されていましね。ちなみに僕は木工作家さんとのコラボレーションで作られたという「KAKEL」というブランドが好きなんですよ。
清水有難うございます。あれも一棟貸しの町屋をされている方からのご注文があって、考えたものなんです。フットサル場で、そのへんにあるナプキンにペンで絵を描いて、木工作家の友人と相談し合って作り始めたんですよ。初めのうちはうまくいかず、何度も作り直しました。
近藤作陶は考えるところから始められることが多いのですか?
清水僕は大学で環境デザインを専攻してプロダクトデザインをかじったこともあるので、ものを考えるときに図面、設計、言葉から入ることが多いんです。だから、器つくるときもコンセプトから考える。実際、器って機能的なものをつくるのは難しいんですけどね。
近藤難しそうですよね。
清水ただ、僕が弟子入りしていた猪飼先生という方が、京都の陶芸家に多い「一個の形に対して一個のヘラを作る」といった手法ではなく、ヘラを手のようにして自由に形を作る方だったこともあり、僕もその技術が身についているんです。その方法だと慣れないうちは同じ形で数を作るのが難しいのですが、慣れると自由に作り出せるのでよかったなと。
近藤なるほどなあ。清水さんのモノづくりは、人と作り上げられていくスタイルも特徴的ですよね。
清水そうですね。トキノハのお店にしても、設計、大工、家具、左官と、それぞれすべて同世代の友人の手によるもの。出会うべくして出会う人たちと、ひとつひとつのものを丁寧に作っていきたいという思いは、すごくあります。
器に合わせたその日だけの料理とかHOTOKIでやるならいろいろな体験をしてもらえます。
近藤ここまで話を聞かせてもらい、僕の考えていた「伝えなければいけない」という気持ちはよりいっそう強くなってきました。
清水そうですか。よかったです。(笑)
近藤そこで、器に興味を持たれるお客さんに対してなにか体験型で企画を作ってみませんか?
清水そうですねえ。でも、僕にできることって、工房を見てもらうことぐらいしかないなあ…。(笑)
近藤陶芸に関する質問に答えるとか?
清水それだったらできますよ! あっ、でも、岩倉の「HOTOKI」なら、カフェを併設しているので器を使ったお料理教室もしています。陶器を作る体験もありますが。せっかくなので、もっと他にもいろいろできるかもしれません。
近藤それ、いいですね。それぞれの器に合わせた料理を京都の料理店のシェフとコラボして開発してもらうとか。それを味わう、または教室として習ってみるのも面白いかもしれません。いろいろ楽しみな体験企画ができそうです。今日はありがとうございました。
「HOTOKI」を尋ねる体験の旅はただいま準備中です。
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