湯治女子シヅカの 「1weekノマド式ひとり湯治旅」~東北編~<宮城編>
2017年8月2日
湯治女子シヅカの「1weekノマド式ひとり湯治旅」~東北編~<序章>でご紹介した通り、仕事をひと段落終えた私は、7日間に及ぶ湯治旅に出ました。いよいよ後半5日目~7日目、宮城へと移動します。
前半1日目~4日目の青森・岩手編の旅はこちら(湯治女子シヅカの「1weekノマド式ひとり湯治旅」~東北編~<青森・岩手編>)。
目次
- ・5日目 宮城 湯主一條で1泊
- ・6日目 宮城 峩々(がが)温泉で1泊
- ・7日目 帰路へ
5日目 宮城 湯主一條で1泊
宮城県鎌先温泉 時音の宿 湯主一條 引用:http://www.ichijoh.co.jp/index.html
ノマド式ひとり湯治旅5日目は、岩手から宮城へと移動します。朝、藤三旅館から送迎バスに乗り新花巻まで1時間。その後新幹線に乗り込み白石蔵王駅へとさらに南下しました。この白石蔵王駅まで、湯主一條の専用送迎車がお出迎えしてくれました。
送迎車の中ではゆったりとこの白石、鎌先温泉の歴史を教えてくださいました。1428年に鎌の先で発見された鎌先温泉。昔から「奥羽の薬湯」として知られ、昔も今も温泉は自噴しているのだそうですよ。あっという間に、駅前の風景からのどかな田園風景へと移ろいます。青森の豪雪地帯から移動するにつれ、天候や気温も穏やかになり、南下してきたことを実感しました。素朴で優しい景色に心が撫でられて、小高い丘の上に、湯主一條はありました。
その歴史と大切に扱ってこられたあかしとして、お宿すべての建物は国登録有形文化財指定になっています。日も暮れると優しい灯りに包まれる木造本館はいまや個室の料亭として活用されていますが、ここはかつて湯治棟だった場所だそうです。廊下にはめこまれたガラスは歪曲しており、これは大正時代のガラスと判ります。もう現代では作ることのできないガラスですね。朝は、障子を通じて柔らかな光が空間を包みます。これがかつてのニッポンの朝だったんだろうな、と思える気持ちの良さでした。谷崎純一郎が描いた「陰翳礼讃」の世界が夜と朝に体感できます。
国登録有形文化財指定となった、かつての湯治棟である木造本館は個室料亭に
旅館の裏にある小さな森「一條の森」へ散策しにいきました。冬の森は、枯木が横たわり、歩くたびに小枝のぱきぱきと乾いた音がしました。森林浴、とはよく言ったもので、これもその空気や空間に身を浸す・浴するということなのですね。森林を歩くことは、湯浴みと似た効果がありそうです。
そして、湯へ。傷ついた武士たちがここで癒されたのだろう湯は、今では心も癒してくれる薬湯になっています。ゆったりと身を沈ませて、目を閉じると、これまで入ってきた湯たちとまた違う泉質に身体が順応していくのがわかります。
こちらの旅館は今回のノマド式ひとり湯治旅の中では、最も高級なお宿でした。敢えてサービスのない湯治宿とは違って、かつての湯治宿だったこちらはワンランク上のおもてなしをさりげなく提供してくれるお宿になっており、新たな湯治宿の進化を見たのでした。
一條の森から見た夕焼け
●宮城県鎌先温泉 時音の宿 湯主一條
宮城県白石市福岡蔵本字鎌先1-48
6日目 宮城 峩々(がが)温泉で1泊
峩々温泉 引用:http://www.gagaonsen.com/spa/atsuyu.html
ノマド式ひとり湯治旅6日目は、湯主一條から蔵王山を挟んで向かい側にある、車で40分の峩々温泉へと向かいました。蔵王国定公園の真ん中に1軒しかない「峩々温泉」は明治8年に開湯し、昭和時代に本格的な湯治宿としての存在を確立したそうで、現在は「歩み入る人に安らぎを、去り行く人に幸せを」というコンセプトで連泊・現代湯治を推奨するお宿となっています。そのコンセプト、湯へのこだわり、食事へのこだわり、現代湯治の提唱等、とても気になっていたお宿でした。
蔵王山の北側にあり、標高も高く、わずか車で40分だった白石の一條とは天候が全く違い、青森に舞い戻ってきてしまったような錯覚さえするほど、山を登っていくにつれ天候が荒れ始めていきました。南下してきたニッポン・東北の山々や縦長な地形を思いながら、その奥深さにどんどん引き込まれていきそうでした。
そして到着した本当に1軒ぽつりとあるお宿、それが峩々温泉です。スマートフォンの電波もなく「圏外の自分」は、なにかから解放されるかのような感覚になり、雪がびっくりするほど降り積もるここでは、周囲がすべて白に包まれていきます。本当に何もない場所に来てしまったんだ…、なにかすべてを捨ててしまえるような、クリーンアップされるような、手離すような、塗り替えるような、そんな感覚に包み込まれます。そしてただ、こんこんと湧き出る湯の温かみと有難みを、心から感じることになるのでした。
峩々温泉の泉質は、ナトリウム・カルシウム・炭酸水素塩・硫酸塩泉で、日本三大胃腸病の名湯のひとつとして数えられ、飲泉も可能です。1週間ほどの旅ごはんで、疲れた胃にぴったりの湯治場となったのでした。そして、湯船のへりに寝そべり、胃のあたりに100回、熱い湯をかける「かけ湯」をお宿は推奨しています。自ら竹の筒で湯をすくいながらお腹にそっとかけることを繰り返し、何杯目だったか忘れたころに湯船に浸かっていないのに身体がぽかぽかしてくるのがわかります。100近い回数だろう頃には、もう眠くなってくるのでした、まるで寝そべりながら行う瞑想のような、そんな体験に近いもののように感じました。
フロントは談話室になっています。薪をくべてパチパチと音を立てるストーブを前に、ブランケットをそっと膝にかけ、椅子に腰かけ、読書します。この談話室にのみWi⁻Fiが届き、「外の世界とアクセス」できるようになっています。峩々温泉六代目主人には小さなお子さんがいらっしゃるのもあって、子どものプレイルームも充実しています。こんな山奥なのに、いろんな世代の方々が集まっていることが、湯治を通じたひとつのコミュニティのような居心地のよさを感じました。そうだ、峩々温泉とは、山の下に我と書くんだ…壮大で圧倒的な自然のもと、ちっぽけな我がいる、ということに気づかされる滞在となりました。いつかまた、ここへ。連泊するほうが、ここの良さをより実感できるでしょう。
暖炉と本とプレイルームを備えた談話室 引用:http://www.gagaonsen.com/floor.html
●峩々温泉
〒989-0901 宮城県柴田郡川崎町大字前川字峩々1番地
7日目 帰路へ
そうして、6泊7日の湯治を巡る旅は終わりを告げます。この体験は、7日前までボロボロだった心身に、すさんだ気持ちや疲れをいきなり断ち切るのではなくじっくりじわじわと手離す方法で、芯から疲れとさよならをし、養生をするような感覚となりました。東京では味わえない圧倒的な自然の中、湯に浸かることでダイレクトに自然と一体となり、身を浸してきたのです。自然に身をゆだねることで、こんなにもあるがままに戻れ、人間が本来持つ動物的な、また直感的な力を取り戻し、マイナスからゼロリセット、もしくはプラス方向へと自然治癒力を高めるような、そんな体験だったことを実感しました。これが、日本古来より行われてきた湯治という養生法なのではなかったのでしょうか。現代社会でも充分に効果を発揮してくれそうです。
休みが取れない、疲れが取れないまま、悪循環に陥る前に、みなさん、一度は湯治旅へ。2泊3日でも充分効果がありますし、1週間の湯治だとより効果的です。人間らしく、動物的であるために、あなたらしくあるために。Be Nature!
ライター情報
湯治女子 シヅカ
広告代理店を経て、地域創生コンサル会社に勤務。大好きなビールよりも、一人旅と温泉と湯治場を愛する。アラフォーに片足を突っ込んだころに幸せを見つけた元癒し欠乏症患者。保有資格は、温泉入浴指導員、温泉ソムリエ、温泉観光実践士。